みんさんは、仕手(して)という言葉を御存知ですか?
仕手は、仕手筋(一部の投資家やグループ)が仕手株(特定の銘柄)を集中的に買いを入れ、株価を意図的に押し上げることで、株の銘柄を意図的に操作する手法を指します。
具体的には、仕手筋が特定の銘柄を集中的に買い入れると同時に、その情報を広めて他の投資家に買いを促します。ある程度仕手筋が値段を上げた後、利益を確定するために大量に売り抜けることで、株価を暴落させます。一般投資家でも、たまたまこのプロセスにうまく乗ることができれば、大きな利益を得ることができますが、多くの場合は、気付いたときには暴落していることが多く、大損しているのが一般的です。
また、現在仕手筋の動きは取り締まりが強化されており、証券取引等監視委員会(SESC)によって常に監視されています。たとえ意図的でなかったとしても、仕手株の動きに巻き込まれ、利益を得た場合にはSESCに疑われる可能性もあります。なるべく仕手に関わらない方が賢明ですが、自分の意思とは無関係に、特に割安で人気の薄い銘柄を購入した場合、仕手に巻き込まれるリスクが生じるこがもあります。
ここでは、「たまたま仕手株を買ってしまった場合はどうすればいいのか?」や「そもそも仕手株はなぜ都合よく上がるのか?」など、投資初心者が抱きがちな疑問に対し、分かりやすく解説します。仕手株の仕組みを理解しておけば、万が一、自分が仕手に巻き込まれた場合でも適切に対応できるでしょう。ぜひ最後までお読みいただき、仕手株についての理解を深めてください。
仕手操作の流れ
まずは、仕手買いから仕手売りがどのような流れで行われるのかを説明します。仕手筋は、銘柄を選定するところから始まり、以下のような流れで仕手買いが進行していきます。

- ターゲット銘柄を選定する
・浮動株が少ない銘柄:発行済み株式のうち、市場で流通している株数が少ない銘柄。少ない取引量で価格操作が可能。
・業績やテーマ性をうまく利用:直近の材料や話題性のある業界を選ぶことで注目を集めやすい。 - 仕手買い:集中的に買いを入れる
・一定期間にわたって、断続的に大量の買い注文を入れます。
・株価が上昇することで、一般の投資家を巻き込む「買い人気」を演出します。 - 一般投資家の参加を促す
・ニュースや噂を利用して、「まだ上がる」「今が買い時」といった期待を市場に広げます。
・SNSや掲示板、口コミなどが現代では活用される場合もあります。 - 仕手売り:高値で売り抜ける
・十分な利益を得た時点で、大量の売りを出して株価が急落する前に撤退します。
仕手行為の歴史
仕手行為がどのように行われるかを理解したところで、過去に行われた実際の仕手行為を見ていきましょう。

- 1950年代〜1960年代の証券市場
戦後の高度成長期に、仕手筋が証券会社と共謀して特定の銘柄を吊り上げ、大きな利益を得る事例が見られました。証券会社と仕手筋は大量の買い注文を市場に流し、株価を急騰させました。しかし、最終的には当局の介入によって摘発され、仕手筋と関係者は法的措置を受けました。 - 1980年代のバブル経済時代
バブル期の日本では、証券業界の自由化が進んでおり、仕手筋が特定の株を操作して利益を上げる事例が増えました。特に、株の価格が急激に上昇する中で、仕手筋の影響力は大きく、「三和証券事件」 や 「ソシエテ・ジェネラル事件」等、特定の株価が急激に上下することがあり、関係者は法的措置を受けました。 - 1999年頃:光通信事件
ITバブル期に光通信株が急騰しました。仕手筋が大規模に関与していたのではないかと噂されました。大量の買い注文と売り抜けが繰り返され、24万円まで上昇していた株価は、20日連続ストップ安になり3,600円台まで暴落しました。株価の乱高下が市場全体に影響を及ぼし、規制強化のきっかけになりました。 - 2011年後半~2012年3月:新日本理化(4406)
2011年4月、新日本理化の株価は約110円でしたが、2011年後半から株価は徐々に上昇を続け、2012年3月には急騰し、約1,297円に達しました。この急騰の背景には、発行株式数が少なく操作しやすかったことが指摘されています。急騰後、株価は急落し、仕手株として注目されました。最終的には、仕手行為に関与したとして関係者が逮捕される事態に発展しました。 - 2014年:ストリーム(3071)
マザーズに上場するインターネット通販のストリームの株価が、2014年には110円台だったのに短期間で530円まで急上昇しました。この急騰が相場操縦によるものだと見なされ、証券取引法違反や相場操縦の疑いが持たれました。その結果、2017年には関連する人物が逮捕され、株価操作に関する疑惑が解明されることとなりました。 - 2023年~2024年:最近の手口
2023年~2024年の市場では、SNSやオンライン掲示板で特定の銘柄が急激に注目され、短期間で株価が上昇するケースが見られました。一部の投資家がこれを仕手筋による操作と見なすことがありますが、詳細な裏付けは困難です。また、例えば、特定の新興市場の銘柄が短期的にストップ高を繰り返した事例も報告されていますが、明確な法的証拠がないために公式な「仕手株」との断定には至っていません。
このように、株価を操作する仕手行為は繰り返し行われてきました。手口は年々巧妙化し、現在ではその実態を断定するのが難しくなっています。しかし、仕手行為が依然として行われていることは確かなようです。
誰が仕手を行っているのか?

市場で観察された過去の事例や仕手行為の一般的な特徴から、以下のような人物が仕手に関わっていたようです。
- 資金力のある投資家
個人またはグループで大規模な資金を持つ投資家。仕手行為には大量の資金が必要であるため、資金力が豊富な個人やグループが関与しやすいとされています。過去の仕手事例から、市場で取引可能な株数が少ない銘柄を好む傾向にあります。 - 投資グループやファンド
海外の投資グループやファンドが組織的に仕手行為を行うことがあります。グループ内で役割を分担し、一部が買いを担当し、他が情報を流布するなど、巧妙な手法を取ります。実際に、特定の銘柄に関与し、情報を流布して価格を操作したグループの存在が過去に指摘されています。 - 仕手対象の企業関係者
銘柄によっては、仕手対象の企業関係者が仕手行為に関与する場合もあります。日本でも過去に、上場企業が意図的に株価を上昇させ、資金調達や経営上の目的を達成しようとした事例が報道されたことがあります。株価を高く維持することで増資の条件を有利にする、または買収防衛策として株価を引き上げる目的があったようです。 - ブローカーや証券会社関係者
過去には、便宜を図る立場にある証券会社の社員やブローカーが仕手筋に協力していたケースが日本や海外で実際に発覚しています。日本では1980年代の「証券スキャンダル」などが代表的な例です。証券会社はマーケットインフラに近いため、情報を操作する力があるのです。 - インフルエンサーや情報提供者
現代の仕手行為ではSNSや掲示板が新たなツールとなっています。実際に、SNSで特定銘柄に対する買い煽りや売り煽りが行われ、短期的に株価が乱高下する事例が増えています。特定の人物やアカウントが「この銘柄は上がる」といった情報を流布し、個人投資家を巻き込むことで株価を操作します。2021年の「GameStop騒動」では、SNS掲示板「Reddit」のユーザーが連携し、株価を急騰させた現象が世界的な注目を集めました。
このように、過去には資金力を持つ投資家や企業関係者、証券会社の関係者が中心となって仕手行為が行われてきましたが、現在ではSNSやインフルエンサーによる情報操作が新たな仕手の手法として注目されています。共通するのは市場や投資家心理を巧みに利用して利益を得る点です。短期的な煽りや噂に惑わされると、思わぬ損失を被る可能性があるため、情報の真偽を冷静に見極めることがこれまで以上に重要になっています。
規制と監視

日本の証券市場には、投資家保護や市場の健全性を維持するためのさまざまな規制が存在します。中でも、仕手行為に関連する規制には以下のようなものがあります。
金融商品取引法
金融商品取引法は、日本の証券市場における取引のルールを定めた法律で、主に投資家の保護や市場の透明性、公正性を確保することを目的としています。この法律には、証券取引や投資信託などの金融商品に関する規制が盛り込まれており、不正行為を防ぐためのさまざまな禁止事項が設けられています。たとえば、仕手行為やインサイダー取引、相場操縦といった市場を不正に操作する行為を禁止しています。特に仕手行為に関する規制には、以下のような禁止事項があります。
相場操縦の禁止(第159条~第161条)
相場操縦とは、株価を意図的に動かす行為のことです。これには、次のような行為が含まれ、法律ですべて禁止されています。
- 虚偽の取引:取引が行われたように見せかける行為です。例えば、自分の売り注文と買い注文を同時に出し、実際には(相手との)取引が行われていないにも関わらず、株価を上げる行為です。
- 見せ玉:売る気がない株の注文を大量に出し、その後すぐに注文を取り消す行為です。大量の注文を見ると、他の投資家は株が売れそうだと錯覚します。錯覚した投資家が、『成行』で大量に買い注文を入れる直前に『注文取り消し』を行うと、株価が急激に上昇することになります。
- 同じ人同士で取引を繰り返して価格を動かす:同じ人やグループが何度も取引を行い、株価を操作することです。相手がいるため取引は成立していますが、虚偽の取引と同様で、相場操縦とみなされます。
インサイダー取引の禁止(第166条)
仕手筋が企業の未公開情報(例えば、業績改善や大型提携の予定)を不正に入手し、それを基に大量の株を買い集めます。この情報が公開され株価が急騰した後に売却し、莫大な利益を得ます。しかし、この売却が一巡すると株価は急落し、後から買った一般投資家が損失を被ります。
このような行為は、インサイダー取引の禁止規定に抵触し、市場の公正性を著しく損ねるため取り締まりの対象となります。
独占禁止法
独占禁止法は、市場での公平な競争を保つため、企業や個人が不正に市場を支配したり、競争を制限したりする行為を防ぐための法律です。この法律は、「競争の保護」「市場支配的行為の防止」「カルテル(価格や生産量調整)の禁止」を目的としています。
例えば「大量に買い注文を入れて株価を急騰させる」「株価が高い時に一斉に売り抜ける」「情報を隠して市場を操作する」といった行為が、他の投資家の取引機会を不当に制限するため、市場での競争が妨げられると見なされると、独占禁止法に触れる可能性があります。
証券取引等監視委員会(SESC)の監視
日本政府の機関であるSESCは、日本の証券市場を監視する独立した機関であり、証券取引所から提供される取引データをコンピュータシステムで分析し、異常な取引(例えば、急激な株価変動や不自然な取引パターン)をリアルタイムで監視して、検察庁に告発する役割を果たします。
監視の対象は、以下のような項目です。
- 株価操作や相場操縦:特定の銘柄の株価を意図的に操作しようとする行為。
- インサイダー取引:内部情報を利用した取引。
- 不自然な売買:特定の銘柄で過度の取引が行われた場合や、取引量が異常に増加した場合。
- 市場の透明性を損ねる行為:情報の隠蔽や虚偽の報告など。
罰則

仕手行為が判明した場合、以下の罰則が科される可能性があります。
- 刑事処分:犯罪に対して国が行う処分です。内容は罰金や懲役などがあります。例えば、ウソの情報を広めて株価を操作した場合、最大で 5年の懲役 や 500万円以下の罰金 が科されることがあります。
- 行政処分:犯罪や違反行為に対して、国の行政機関が行う処分です。内容は、業務停止や課徴金(罰金のようなもの)があります。例えば、証券会社が仕手行為に関わっていた場合、金融庁から業務停止命令を受けることがあります。また、不正で得た利益を国に納める課徴金が科されることもあります。
- 民事責任:加害者が被害者に対して損害を補償することです。内容は、損害賠償などがあります。例えば、仕手行為によって株価が急に動き、損をした投資家が、仕手行為をした人に対して 損害賠償 を求めることがあります。
このように、仕手行為に対する規制は、金融商品取引法や独占禁止法をはじめとした複数の法律によって支えられており、違法な行為が発覚すれば厳しい罰則が科せられます。また、証券取引等監視委員会(SESC)による監視が行われることで、違法行為を未然に防ぐ体制も整っています。投資家は、これらの規制を理解し、合法的な取引を行うことが、より安全な投資環境を作り出す努力が大切です。
仕手に巻き込まれないようにするには

仕手行為は巧妙で、知らないうちに自分も加担してしまう可能性があります。そのため、投資をする際には冷静さを保ち、以下の点に注意しましょう。
まず、SNS等の情報媒体への投稿についてですが、「この銘柄は上がる」と投稿すること自体は問題ありません。しかし、その銘柄について根拠がない場合、たとえば業績が悪いのに何となく上がると思って投稿すると、それが問題になることがあります。もしその投稿がSNSで拡散され、根拠なしに多くの投資家がその銘柄を買い始めると、仕手グループがその情報を見て、意図的に株を大量に買い値上がりさせることがあります。仕手グループが売り抜けた時には、株価が急落し、結果として自分が気づかないうちに、仕手グループの一員として行動してしまっている可能性があるのです。
次に、「短期間で大きく儲かる」といったうまい話には注意が必要です。このような話には裏があることがほとんどです。例えば、「今すぐこの株を買えば急騰する」といった情報を信じて慌てて株を購入してしまうと、その株価が急激に上がった理由が仕手グループによるものかもしれません。もし仕手グループによる急騰であれば、気が付いたときには大暴落が起きている可能性があります。
このような事態を避けるためには、投資の基礎知識を身につけることが大切です。知識不足は間違った解釈につながり、仕手行為に巻き込まれるリスクが高まります。「なぜ株が発行されているのか?」「インカムゲインとキャピタルゲインの違いは何か?」「株の価格上昇はなぜ起きるか?」といった疑問に答えられるような基本的な投資のルールを理解することが重要です。
また、短期的な利益を追い求めるのではなく、長期的な視点で堅実に資産を増やす方法を学ぶことも重要です。仕手行為に関連する銘柄は値動きが激しく、短期的な利益を狙う投資家が巻き込まれがちです。多くの場合、損をするのは初心者の一般投資家です。
これらを心がけることで、自分が仕手行為に加担するリスクを避け、安全かつ健全な投資を続けることができます。投資の際には冷静な判断力を持ち、しっかりとした知識をもとに行動することが、安定した資産形成への近道です。仕手行為のようなリスクを回避し、長期的な視点を持つことで、より着実に資産を増やすことができます。
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