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なぜ日本株は暴落するのか?暴落のメカニズム

日経平均株価過去の暴落 投資スタイル
日経平均株価過去の暴落

2024年7月、日銀が政策金利の利上げを発表した影響で、日経平均株価は7月11日に付けた史上最高値42,224円から、1カ月も経たないうちに1万円以上の下落を見せました。その後、数週間で元の水準まで回復しましたが、同年9月27日に行われた自由民主党党首選で石破氏が勝利した直後、また日経平均先物は大幅に下落しました。この市場の反応は、政治的な不透明感が影響したと考えられています。しかし、現在では再び値が戻りつつあります。

新NISA制度によってこれまで投資経験がなかった人々にとって、今回のような急激な市場の変動に驚いている方も多いと思います。とはいえ、これらの下落は「本当の暴落」とは言えません。本当の暴落では、株価はすぐに元の水準に戻ることなく、急落したままか、さらに下がり続けることになります。

果たして、今後「本当の暴落」は起きるのでしょうか?もし起きるとしたら、いつなのでしょうか?今回は、暴落のメカニズムについての謎に迫りたいと思います。

まずは日本株のマーケット市場を把握しよう!

日本株市場は、国内外の多様な投資家によって支えられています。まずは、どういった人がどれくらいの割合で投資を行っているのかを見ていきましょう。以下のグラフを見てください。

JPX 2023年度株式分布状況調査 株主(2024年7月2日)
株主数の割合
JPX 2023年度株式分布状況調査 金額(2024年7月2日)
投資金額の割合

このグラフは、2023年度の取引状況について、日本取引所グループ(JPX)(※)が2024年7月2日に発表したデータをもとに作成しています。左の円グラフは「株主数の割合」、右の円グラフは「投資金額の割合」を示しています。興味深いのは、株主数の割合では「個人・その他」が全体の約98%(約7,400万人)と圧倒的に多く、市場の大部分を占めている一方で、投資金額の割合は全体の約17%と、1/5にも満たない点です。一方、「外国法人等」の株主数は全体のわずか1%に過ぎませんが、投資金額の割合は全体の32%を占め、「個人・その他」の約2倍の影響力を持っています。

※日本取引所グループ(8697)は、東京証券取引所グループと大阪証券取引所が2013年1月に経営統合して誕生した取引所金融商品市場の開設・運営に係る事業を行う企業です。

調査レポート | 日本取引所グループ
日本取引所グループは、東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所等を運営する取引所グループです。

「個人・その他」は、多くが日本の個人投資家で、NISAを活用して投資信託やインデックスファンドなどの長期投資商品を購入しています。これらの投資家は、長期保有を目的としているため、企業の業績や経済状況などの短期的なファンダメンタルズにはあまり反応しません

一方、「外国法人等」は、幅広い投資対象(先物や為替、仮想通貨、海外株式など)の中から、日本株が有利と判断して投資を行っています。日本の投資家と異なり、NISAのような税制優遇措置がないため、長期保有のメリットが少なく、ファンダメンタルズに敏感に反応し、短期的な価格変動を狙った売買を頻繁に行います

このような投資スタイルの違いが、株価予測を難しくしています。株価の暴落タイミングを予測するには、自分とは異なるスタイルの投資家がどのようにマーケットに影響を与えているかを理解することが重要です。

デイトレーダー

デイトレーダー

デイトレーダーは、1日のうちにポジションを開閉し、短期的な価格変動を利用して利益を得ることを目的とした投資家です。彼らは、市場の小さな価格変動を狙うため、テクニカル分析やリアルタイムのデータを重視します。また、ネガティブなニュースに敏感で、そうしたニュースが大きな利益を生むチャンスになることもあります。一方で、リスク管理にも注力しており、ストップロスなどを活用して損失を最小限に抑えようとします。しかし、このような取引行動が、ネガティブなニュースに伴う価格変動をさらに大きくする一因にもなっています。

短期投資家とは

短期投資家は、数日から数週間の期間でポジションを保有し、短期間の市場の動きを利用して利益を追求します。彼らはファンダメンタル分析を重視し、企業のニュースや経済指標に注目します。特にネガティブなニュースが出ると、その影響を考慮して投資戦略を見直す傾向があります。短期投資家も、デイトレーダーと同じようにネガティブなニュースに反応してすぐに売りに転じることが多く、キャピタルゲインを狙って利益確定や損切りの基準を設けています。

投資をするなぞの人

これは、ネガティブなニュースが市場心理を悪化させ、価格が急落する可能性が高いためです。そのため、短期投資家はこうした状況を利用することに積極的です。

一方で、ポジティブな情報が発表されると、投資家全体で取引量が増えることが一般的ですが、その影響で価格変動は比較的小さくなりやすいです。これは、ポジティブなニュースは期待感を生むものの、必ずしも急激な価格上昇を引き起こさないことが多いためです。

長期投資家とは

長期投資家は、数年から数十年のスパンで資産を保有し、企業の成長や経済の発展を通じて利益を得ることを目指す投資家です。彼らはファンダメンタル分析を重視し、企業の経済的な健全性や将来の成長を評価します。市場の変動に対しては比較的鈍感で、短期的な価格変動やネガティブなニュースにすぐに反応しない傾向があります。長期投資家は、短期的なトレンドより、時間をかけて投資の成果を得ることを信じようとします。

パソコンするおばさん

短期投資家が、数日から数週間の短い期間で取引を行い、価格の小さな変動を利用して利益を追求する一方で、長期投資家は、企業の根本的な価値を探って投資を行い、時間をかけて資産を育てることを重視します。また、長期投資家はリスクを減らすために、株や債券、不動産などの異なる種類の資産や、日本やアメリカなどのさまざまな国に投資します。

このように、長期投資家は市場の変動に対して冷静に構える一方で、短期投資家は価格変動が大きいネガティブな情報に素早く反応するという違いがあります。

実は海外投資家が日本株を動かしている!

2024年2月22日、日経平均株価は1989年以来の史上最高値を更新し、3万8,915円を記録しました。さらに、同年7月11日には4万2,000円台に達したとの報道もあります。

また、同時期に、2014年から始まった期間限定のNISA制度が2024年に長期運用が可能な新制度へと移行しました。そのため、『新制度のおかげで日経平均株価が高値を更新した』と感じている人も多いのではないでしょうか。しかし、果たして本当にそうでしょうか?次のグラフをご覧ください。

海外投資家の売買動向(差引金額(億円))
海外投資家の売買動向(差引金額(億円)
個人の売買動向(差引金額(億円))
個人の売買動向(差引金額(億円))

このグラフは、2023年度の取引差引金額(取引差引金額とは取引の総額から手数料や税金を差し引いた金額のこと)について、日本取引所グループ(JPX)が2024年7月2日に発表したデータをもとに作成しました。左側は海外投資家、右側は個人投資家のデータです。注目すべき点は、2023年に海外投資家が76,906億円の買い越しに転じた一方で、個人投資家は38,165億円の売り越しを記録していることです。38,741億円もの差額がありますので、個人投資家では無く、海外投資家が日経平均株価の値上がりに深く関与していると考えられます。

また、下のグラフは、2014年12月31日から2023年12月31日までの日経平均株価のデータを示しています。先ほどの取引差引金額の棒グラフで海外投資家が買い越している年、すなわち2020年と2023年に株価が大きく上昇しています。

日経平均株価2014年12月31日~2023年12月31日
日経平均株価2014年12月31日~2023年12月31日

上記のことをまとめると以下のようになります。

  • 個人投資家は売り越しているにもかかわらず日経平均株価は上昇している
  • 海外投資家が買い越した年に日経平均株価が上昇している
  • 投資額の割合は個人投資家の割合が約17%に対して、海外投資家は約32%

つまり、日経平均株価を押し上げているのは個人投資家ではなく、海外投資家であると考えられます。(※2024年7月のJPX調べから推測)

このように、海外の短期投資家は日本株市場において重要な役割を果たしています。そんな彼らは、短期的なキャピタルゲインを狙うため、主にファンダメンタルズを重視し、ネガティブな情報には敏感に反応します。特に経済指標や政策変更があった場合、海外投資家が反応して市場に大きな影響を与えるのです。

過去の暴落事例とその背景の出来事

過去の暴落事例から暴落のメカニズムを考えてみたいと思います。過去の暴落を振り返ると、引き金になっているのはネガティブサプライズのようです。

日経平均株価過去の暴落
日経平均株価過去の暴落

例えば、日本のバブル崩壊やインターネットバブルの崩壊、サブプライムローン問題やリーマンショック、新型コロナウイルスの感染拡大といった出来事は、日本株市場にも大きな影響を与えました。これらの出来事では、短期投資家が先行して売りに出ることで市場の不安が高まり、結果的に長期投資家も巻き込まれて暴落が引き起こされたと考えられます。

しかし、注目してほしいのは、年数はかかるものの、いずれの暴落においても過去の水準に再び戻っているという点です。ただし、バブル崩壊から絶頂期の水準に戻るまでに約30年を要しているため、元の水準に戻るまでの時間を待てるか、といったことも考慮して投資することが重要です。

どのように反応して暴落したかを推測

過去の暴落がどのように暴落したかを推測してみます。

  1. ネガティブサプライズが発生する:例えば、経済指標の悪化や企業の業績不振などの予期せぬ悪材料が発表されます。
  2. デイトレーダーが反応して売り始める:デイトレーダーは短期的な動きを狙うため、こうしたニュースに敏感に反応して売りを仕掛けます。
  3. 海外投資家が売り始める:ネガティブサプライズは日本円も連れて下落するため、日本株と為替の下落で損失がより大きくならなようにと、海外投資家が早急な売りを進めます
  4. 長期投資家は保有し続ける:「戻ってほしい」という期待を持ちながら、ほとんどの長期投資家は株を売らずに保有し続けます
  5. 短期投資家が売り始める:この時点で株価は大幅に下落しているため、暴落のし掛けどころでもあります。短期的な利益を狙う短期投資家が新たに売りに参加します。
  6. 長期投資家が売り始める:一定期間経っても価格が回復しないで下落し続けるため、しびれを切らした一部の長期投資家が売り始めます
  7. 売りが加速する:長期投資家の売りに反応し、デイトレーダーや短期投資家もさらに売りを加速させます。
  8. 残りの長期投資家が売り始める:最終的に、耐えきれなくなった残りの長期投資家も売り始めます

このように、暴落が起きるときは、最初にデイトレーダーが売り始め、次に短期投資家、最後に長期投資家という順に反応し、さらに異なる投資スタイルの投資家同士が影響し合い、暴落が加速していくと考えられます。このプロセスは推測ですので正しいかどうかを検証することはできませんが、確かなことは、買いたい投資家よりも売りたい投資家が加速度的に増えている状況ということは間違いなさそうです。このような状況になってしまうと、株価が上昇することはありません

長期投資家は眠れる獅子

長期投資家は、一見すると市場に影響を与えない存在のように見えますが、市場の絶対数が圧倒的に多いため、彼らが動くときには市場に大きな影響力を持ちます。特に、普段あまり反応しない長期投資家がネガティブな情報に反応すると、市場が急激に変動することがあります。その動きを把握することは、暴落のタイミングを知る上で非常に重要です。まず彼らがどのような人々で構成されているのかを理解しましょう。冒頭で紹介したグラフをもう一度ご覧ください。

JPX 2023年度株式分布状況調査 金額(2024年7月2日)
JPX 2023年度株式分布状況調査 金額(2024年7月2日)

外国法人等(約32%)以外は、主に長期投資家と考えられてます。

まず、金融機関(約29%)の内訳は次のような構成とされています。年金基金(30〜40%)、保険会社(20〜30%)、投資信託(15〜25%)、ヘッジファンド(5〜10%)、投資銀行・ブローカー(5〜10%)、その他の機関投資家(5〜10%)。これらの投資は、多くが組織的な承認プロセスを経て売買が行われます。特に年金基金や保険会社は、短期での売買が難しいため主に長期保有と考えられます。ただし、ヘッジファンドや一部のアクティブ運用型の投資信託は、比較的短期的な売買も行います。

次に、事業法人等(約19%)の内訳は、戦略的パートナーシップ(約40%)、運用益の確保(約30%)、リスク分散(約20%)、経営参加の目的(約10%)です。こちらも、組織的な意思決定を経て売買が行われるため、短期での売買は難しく、長期保有が主な目的となります。

また、外国法人等(約32%)にも長期投資家が多く存在するため、日本株を保有するほとんどの投資額の割合が長期投資と考えられます。これらの長期投資は、投資に目的があるため、ネガティブなニュースに対して慎重です。しかし、もし、その慎重な長期投資が反応するようなネガティブなニュースが発生したときは暴落になる可能性が高いと考えられます。

長期投資家はほとんど動かない

長期投資家がすぐに市場で売買しない理由は、次の5つと考えています。

投資目的が長期的であるため
長期投資家は、数年から数十年単位での利益を見込んで株式を保有しています。そのため、短期的な市場の上下動にはほとんど影響を受けず、急な売却は行いません。

決定プロセスが時間を要する
金融機関や事業法人などの大規模な投資家は、株の売買に組織的な承認が必要です。これにより、即座に反応することが難しく、結果として売買が遅くなります。

安定した収益源を求めている
配当金や安定した株価成長を重視しているため、短期の価格変動はあまり気にせず、企業の中長期的な成長に焦点を当てています。

市場の動揺に対する耐性
短期の価格変動や一時的な市場の動揺に対して、長期投資家は心理的に耐える能力があります。長期的な視点でポートフォリオを維持し、経済全体や企業の将来性に賭けているため、感情的な取引を避けます。

売却する際の影響を考慮
長期投資家が大量の株式を保有している場合、一度に大量の株を売却すると市場に大きな影響を与える可能性があるため、売却には慎重になります。大きな売り圧力は、株価の急激な下落を引き起こす恐れがあるため、大口の長期投資家はタイミングを見計らい、少しずつ売却することが一般的です。

このように、長期投資家は短期的な市場の動きにすぐ反応することはなく、慎重なスタンスを保ちながら行動する傾向があります。

長期投資家が動くとき

日本株の暴落が起こる背景には、安定志向の長期投資家が動く瞬間が大きく関わっています。彼らは市場の短期的な変動にはほとんど反応しませんが、一定の重大な状況に直面すると、やむを得ず動くことがあります。それが市場全体の暴落を引き起こす決定的な要因となることがあります。ここでは、長期投資家が動く5つのタイミングを解説し、それが日本株の暴落メカニズムにどのように関与するかをまとめます。

企業の根本的な問題が浮上したとき
長期投資家は、企業の持続的な成長を見込んで投資しています。しかし、企業の業績悪化や経営陣の変動などで、将来の成長が見込めなくなると、彼らはリスクを回避するために株式を売却します。この動きが他の投資家に広がると、市場全体に下落圧力がかかります。

経済全体が危機に直面したとき
世界的な金融危機や日本経済全体に深刻な影響が出と、長期投資家もそのリスクに対応せざるを得なくなります。こうした状況では、通常の投資戦略が通用しなくなり、株式の売却が進むことがあるため、大規模な下落が発生する要因になります。

投資方針の変更
長期投資家が投資方針やポートフォリオ戦略を見直す際、特定の株式の比率を減らすことがあります。これが大量の売却を生み出し、短期的に株価の下落を引き起こす可能性があります。

資金の流動性確保が必要なとき
長期的な資産運用でも、時折、現金化が求められる場合があります。年金基金や保険会社などが大規模な現金化を行うと、マーケットに大きな売り圧力をかけ、暴落につながる場合があります。

市場が極端なパニックに陥ったとき
市場が極端なパニックに陥ったとき、長期投資家も市場を見限ることがあります。極端な暴落や世界的な経済危機に直面すると、彼らが売却を行うことで市場の下落が一層加速することがあります。パニックに陥ると、回避方法がなくなります。まさにこれが暴落の本質です。

このように、長期的に投資を続けていた彼らが売却に踏み切るということは、市場や企業の状況が深刻であることを示すサインです。また、安定志向の長期投資家が売却に動くことで、他の投資家にも不安感が広がり、雪だるま式に売りが肥大化していきます。つまり、長期投資家の行動が暴落の始まりとなるのです。したがって、長期投資家の動向を注意深く見守り、どのタイプの売りになっているのかを把握し、冷静に対応することが大事です。また、過去の歴史から理解した『元の価格に戻らない暴落はない』ことを頭に入れてどのくらいまで下がるかや、どのくらいの期間で値が戻るかを予測することも忘れてはなりません。

これで、「なぜ日本株は暴落するのか?暴落のメカニズム」についての解説を締めくくります。日本株市場の暴落は複数の要因が絡み合って生じますが、最後に長期投資家が動くと誰も止めることはできません。この長期投資家の投げ売りこそが、本当の暴落の始まりとなるのです。

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